※本記事にはアフィリエイト広告を含みます。
結論:会社員の生活防衛資金は、「生活費の6ヶ月分」で決め打ちしなくて構いません。会社員には傷病手当金と失業給付という“公的な生活防衛資金”がすでにあるからです。
ただし、この2つには共通の弱点があります。どちらも「すぐには入らない」のです。だから本当に自分で用意すべきなのは、①公的な給付が始まるまでの空白を埋めるお金と、②公的な給付だけでは足りない差額の2つ。この記事では、その金額を自分の数字で出せるようにします。

生活防衛資金って、よく「生活費の6ヶ月分」って言われるでしょう。うちだと180万円くらい。……正直、遠いなって思っちゃう。

その気持ち、よく分かるよ。でもね、「6ヶ月分」っていう数字には、実はあまり根拠がないんだ。会社員には公的な備えがあるから、そこを数えてから足りない分を出せばいい。うちの場合いくらなのか、これから一緒に計算しよう。
生活防衛資金とは?|貯金・投資資金との違い
生活防衛資金とは?
生活防衛資金とは、収入が止まったときに、生活を続けるために取り崩すお金のことです。増やすためのお金ではなく、減らさないためのお金です。
家計のお金は、目的で3つに分けると整理しやすくなります。
| 区分 | 目的 | 置き場所 | 増やすか |
|---|---|---|---|
| ①生活防衛資金 | 収入が止まったときに生活を続ける | すぐ引き出せる預金 | 増やさない |
| ②使う予定のあるお金 | 教育費・車の買い替え・住宅の頭金など、5年以内に使う | 預金・個人向け国債など | ほとんど増やさない |
| ③増やすお金 | 老後資金など、10年以上先に使う | NISA・iDeCoなど | 増やす |
この3つを分けずに「貯金」とひとまとめにしていると、収入が止まった瞬間に、増やすためのお金を売ることになります。それも、たいてい相場が悪いときに。生活防衛資金を分けておく意味は、そこにあります。

じゃあ、教育費のために貯めてる分は生活防衛資金には入れちゃダメなのね。

そう。使う予定が決まっているお金は、防衛には使えないからね。塾代を払う予定のお金で失業をしのいだら、結局あとで困ることになる。目的が違うお金は、口座も分けておくのがいちばん確実だよ。
なぜ「6ヶ月分」が独り歩きしているのか
「生活防衛資金は生活費の3ヶ月分」「いや6ヶ月分」「1年分は必要」——調べるほど数字がばらつきます。実は、この差は“誰を想定しているか”の差です。
| 想定している人 | 必要とされる目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 自営業・フリーランス | 1年分 | 傷病手当金がなく、雇用保険にも入っていない。収入が止まると公的な受け皿がほとんどない |
| 会社員 | ここが本記事のテーマ | 傷病手当金・失業給付・高額療養費がある。公的な受け皿を数えてから差額を出せる |
よく見かける「6ヶ月分」「1年分」という数字は、もともと自営業・フリーランス向けに語られてきた目安が、会社員にもそのまま流用されている面があります。
もちろん、多く持っていて損はありません。ただ、「180万円貯まるまで投資を始めてはいけない」と思い込んで、5年間なにもしなかった——これは実際によく起きます。目安が厳しすぎると、人は動けなくなるのです。

……正直、うちがそうだったかも。「まず生活防衛資金」って言われて、そこで止まってた。

多いと思う。だから「6ヶ月分」を疑うところから始めたいんだ。疑うといっても、減らしていいという話じゃない。自分の条件で計算し直すということだよ。
会社員がすでに持っている“公的な生活防衛資金”
ここが本記事の中心です。会社員は、収入が止まったときの備えを、すでに給与天引きで買っています。健康保険料と雇用保険料がそれです。
① 病気・けがで働けないとき|傷病手当金
業務外の病気やけがで働けなくなったとき、健康保険から傷病手当金が支給されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| いくら | 標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 3分の2(1日あたり) |
| どのくらい | 通算1年6ヶ月 |
| 目安 | 月給30万円なら1日あたり約6,667円・1ヶ月あたり約20万円 |
つまり病気で1年半働けなくても、月給のおよそ3分の2は入り続けます。生活費を丸ごと自分で用意する必要はありません。
② 失業したとき|雇用保険の基本手当(失業給付)
会社を辞めたときは、雇用保険から基本手当が支給されます。ここは「いくら」と「何日分」の2つで決まります。
まず何日分か。これは年齢・勤続年数・辞めた理由で変わります。40代・勤続20年以上の会社員なら、次のとおりです。
| 辞めた理由 | 年齢 | 勤続20年以上の給付日数 | 月数の目安 |
|---|---|---|---|
| 自己都合 | 全年齢 | 150日 | 約5ヶ月 |
| 会社都合(倒産・解雇等) | 35歳以上45歳未満 | 270日 | 約9ヶ月 |
| 会社都合(倒産・解雇等) | 45歳以上60歳未満 | 330日 | 約11ヶ月 |
次にいくらか。基本手当の1日あたりの金額(基本手当日額)は、離職前の賃金の50〜80%です(賃金が低い人ほど率が高くなります)。ただし年齢ごとに上限があります。
| 離職時の年齢 | 基本手当日額の上限 | 30日分の目安 |
|---|---|---|
| 30歳未満 | 7,450円 | 約22万3,500円 |
| 30歳以上45歳未満 | 8,270円 | 約24万8,100円 |
| 45歳以上60歳未満 | 9,110円 | 約27万3,300円 |
| 60歳以上65歳未満 | 7,830円 | 約23万4,900円 |
厚生労働省の資料には具体例も示されています。賃金日額6,000円なら基本手当日額4,683円(給付率78%)、賃金日額9,000円なら6,013円(同66.8%)。賃金が高いほど率が下がる仕組みです。

思ったよりもらえるのね。でも……上限があるってことは、お給料が高い人ほど足りなくなるってこと?

そのとおり。月給が高い人ほど、公的給付との差額が大きくなる。だから「収入が多い家庭ほど生活防衛資金が多く要る」んだ。年収が高いから安心、ではないんだよ。
③ 医療費が高額になったとき|高額療養費
入院や手術で医療費が高額になっても、高額療養費制度によって1ヶ月の自己負担には上限があります。生活防衛資金で「医療費まるごと」を用意する必要はありません。詳細は高額療養費制度は2026年8月からどう変わる?で整理しています。
ここまでを踏まえた考え方は医療保険はいらない?と同じです。公的保障を先に数えて、足りない分だけを自分で用意する。これが papa-fp の一貫した順番です。
④ 名前が1文字違う2つの「傷病手当」を混同しない
ここは多くの記事が取り違えているところです。「傷病手当金」と「傷病手当」は別の制度です。
| 傷病手当金 | 傷病手当 | |
|---|---|---|
| どこから | 健康保険 | 雇用保険 |
| いつ | 在職中に病気・けがで働けないとき | 離職後、求職の申込みをした後に病気・けがで働けないとき |
| いくら | 標準報酬月額の平均÷30×3分の2 | 基本手当の日額と同額 |
| 条件 | ― | 15日以上引き続いて就職できないとき(14日以内なら基本手当が支給) |
| 期間 | 通算1年6ヶ月 | ― |
つまり在職中は健康保険の傷病手当金、離職後は雇用保険の傷病手当と、担当が入れ替わります。名前が似ているせいで「離職したら何もない」と誤解されがちですが、そうではありません。
⑤ 失業給付と傷病手当金は、同時にはもらえない
これも押さえておいてください。基本手当の受給要件には、はっきりこう書かれています。
就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。(中略)病気やけがのため、すぐには就職できないときは、基本手当を受けることができません
ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
基本手当は「働ける状態」であることが前提です。一方、傷病手当金は「働けない」ことが条件。したがってこの2つは原理的に同時には受け取れません。「両方もらえるから安心」という計算をしていると足りなくなります。

じゃあ、病気で退職したら、失業給付はもらえないってこと?

もらえなくなるんじゃなくて、後ろにずらせるんだ。基本手当の受給期間は原則1年間だけど、病気・けが・妊娠・出産・育児などで引き続き30日以上働けないときは、その日数だけ延長できる。最長3年間。病気で働けない間に期限切れにならないための仕組みだよ。
🚨ただし「すぐには入らない」|ここが生活防衛資金の本当の出番
公的な備えは手厚い。しかし、収入が止まった翌日から振り込まれるわけではありません。ここが、生活防衛資金がどうしても必要になる理由です。
失業したとき|待期7日+給付制限
ハローワークで手続きをしても、すぐには支給されません。まず全員に7日間の待期期間があります。そのうえで、自己都合で辞めた場合は「給付制限」が加わります。
| 辞め方 | 待期 | 給付制限 | 初回振込までの目安 |
|---|---|---|---|
| 会社都合 | 7日 | なし | 1ヶ月程度 |
| 自己都合 | 7日 | 原則1ヶ月 | 2〜3ヶ月 |
| 自己都合(5年間に2回以上) | 7日 | 3ヶ月 | 4ヶ月以上 |
| 重責解雇 | 7日 | 3ヶ月 | 4ヶ月以上 |
また、自ら教育訓練を受けた場合は給付制限が解除される仕組みもできています。
病気で休んだとき|傷病手当金も後払い
傷病手当金も同じです。申請には医師の証明と会社の証明が必要で、休んだ期間が終わってから請求する流れになります。そのため初回の振込までは1〜2ヶ月かかるのが実情です(傷病手当金はいくら・いつまでもらえる?)。

つまり、制度はあっても、その間の生活費は自分で出さないといけないってこと?

そう。ここが生活防衛資金の本当の出番なんだ。「1年分ないと不安」じゃなくて、「入金が始まるまでの2〜3ヶ月をしのぐ」+「公的給付では足りない差額を埋める」——この2つが計算できれば、必要額は自分で出せる。
わが家の必要額を出す3ステップ
ここまでで材料はそろいました。生活防衛資金=「空白を埋めるお金」+「差額を埋めるお金」です。式にすると次のとおりです。
※共働きで配偶者の収入が続くなら、①②とも「生活費 − 配偶者の手取り」で計算します。
※③は「見落とされがちな“退職後に増える支出”3つ」の章で扱います。まず①②で土台を作ってから足してください。
ステップ1|月の生活費を出す(収入ではなく支出)
年収ではありません。毎月出ていくお金です。家賃または住宅ローン、食費、水道光熱費、通信費、保険料、教育費、交通費——通帳やクレジットカードの明細から、直近3ヶ月の平均を出してください。
このとき「収入が止まると減る費目」(通勤定期代・昼食代・被服費など)は差し引き、「退職すると増える費目」(住民税・健康保険・国民年金)は後で③として足します。ここで混ぜると計算が合わなくなるので、分けておいてください。
ポイントは「失業したら減る費目」を差し引くことです。通勤定期代、昼食代、被服費などは収入が止まれば下がります。逆に、社会保険料は国民健康保険・国民年金に切り替わって自分で払うことになるので、ここは残ります。
ステップ2|空白期間を決める
| 想定する事態 | 空白期間の目安 |
|---|---|
| 自己都合で辞める | 3ヶ月(待期7日+給付制限1ヶ月+認定・振込) |
| 会社都合で辞める | 1ヶ月 |
| 病気で長期に休む | 2ヶ月(傷病手当金の初回振込まで) |
ステップ3|公的給付との差額 × 受給期間を足す
前章の表から、自分の年齢・勤続年数・想定する辞め方に当てはまる給付日数と月額の目安を拾って、生活費との差を出します。
では、実際に計算してみます。
①空白3ヶ月:28万円 × 3ヶ月 = 84万円
②差額:(28万円 − 18万円)× 5ヶ月(150日)= 50万円
合計 = 134万円(生活費の約4.8ヶ月分)
「6ヶ月分=168万円」ではなく134万円。近い数字ではありますが、根拠のある134万円となんとなくの168万円では、貯めるときの納得感がまるで違います。
条件が変わると、答えは大きく動く
ここからが本題です。同じ式に別の条件を入れると、必要額は3倍以上ちがいます。
| 条件 | ①空白の分 | ②差額の分 | 必要額 | 生活費の何ヶ月分 |
|---|---|---|---|---|
| 共働き(配偶者の手取り15万円)・自己都合 | 39万円 | 0円 | 39万円 | 約1.4ヶ月分 |
| 片働き・自己都合(上のケース) | 84万円 | 50万円 | 134万円 | 約4.8ヶ月分 |
| 片働き・会社都合(給付9ヶ月) | 28万円 | 90万円 | 118万円 | 約4.2ヶ月分 |
| 片働き・生活費が月35万円・自己都合 | 105万円 | 85万円 | 190万円 | 約5.4ヶ月分 |

共働きだと39万円……。180万円だと思ってたのに、全然ちがう。

配偶者の収入が続くかどうかが、いちばん効くんだ。だから「6ヶ月分」を全世帯に当てはめると、共働き家庭は必要以上に現金を寝かせることになるし、逆に片働きで生活費が大きい家庭は足りない。
もうひとつ大事な点があります。会社都合のほうが必要額が小さく出ることです。給付が早く始まり、期間も長いからです。つまり、いちばん備えが要るのは「自分から辞める」ときです。転職を考えている方は、この数字を先に見ておいてください。
見落とされがちな“退職後に増える支出”3つ
必要額の計算でいちばん外しやすいのが、ここです。会社を辞めると、収入が減るだけでなく支出が増えます。会社が半分払ってくれていたものを、自分で全額払うことになるからです。
① 住民税|収入が止まっても、前年の所得に対して請求が来る
これが最大の落とし穴です。住民税は前年の所得に対して課税されます。つまり失業して収入がゼロになっても、前年に働いていた分の住民税は請求されます。
しかも会社員のときは特別徴収(給与から毎月天引き)でしたが、退職後は普通徴収に切り替わり、年4回(6月・8月・10月・翌年1月)にまとめて自分で納付することになります。1回あたりの請求額は、天引きされていた月額の3倍前後になります。

収入がないのに、去年の分の税金が来るの……?

そうなんだ。ここを見落とすと計画が崩れる。だから生活防衛資金には、住民税の年額を1年分そのまま乗せておくくらいでちょうどいい。金額は毎年6月ごろに配られる住民税の通知書で確認できるよ。仕組みは住民税が2026年6月から上がった理由で整理しているから、そこも見ておくといい。
② 健康保険|労使折半がなくなる
会社員の健康保険料は会社と折半です。退職するとこの折半がなくなり、次のどちらかを選ぶことになります。
| 選択肢 | 保険料 | 条件・期限 |
|---|---|---|
| ①協会けんぽの任意継続 | 退職前に控除されていた保険料の2倍(会社負担分がなくなるため。ただし上限あり) | 退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上/退職日の翌日から20日以内に手続き/加入期間は2年 |
| ②国民健康保険 | 加入する世帯の人数や前年の所得などで決まる | お住まいの市区町村の国民健康保険担当課へ |
| ③家族の健康保険(被扶養者) | 負担なし | ご家族が加入している健康保険の扶養の条件を満たすこと。ご家族の勤務先へ確認 |
また共働きなら、③配偶者の扶養に入れる可能性があります。負担がゼロになるので、条件に当てはまるかを必ず確認してください。
③ 国民年金|厚生年金からの切り替えで定額負担に
厚生年金は会社と折半でしたが、退職して第1号被保険者になると国民年金保険料を全額自分で納めます。
| 項目 | 金額(令和8年度) |
|---|---|
| 国民年金保険料 | 月額 17,920円(1人あたり) |
| 夫婦2人分 | 月額 35,840円 |
| 口座振替の早割 | 17,860円(60円割引) |
なお、収入が減ったときは国民年金保険料の免除・納付猶予を申請できる場合があります。失業を理由とした特例もあるため、該当しそうなら年金事務所か市区町村の窓口で相談してください。「払えないから未納」がいちばん損をします。
では、さきほどの134万円はどうなるか
ここで、H2「わが家の必要額を出す3ステップ」で計算した田中家の134万円に戻ります。あの計算には、いま見た退職後に増える支出が入っていません。足してみます。
金額がはっきり出せるのは国民年金です(住民税と健康保険は個別性が高いので、ここでは金額を置きません)。空白3ヶ月+受給5ヶ月=8ヶ月分で計算します。
| もとの必要額 | +国民年金(8ヶ月分) | 合計 | 生活費28万円の何ヶ月分 | |
|---|---|---|---|---|
| 片働き(配偶者も第1号になる) | 134万円 | 28万6,720円(夫婦2人分) | 約163万円 | 約5.8ヶ月分 |
| 共働き(配偶者は第2号のまま) | 39万円 | 14万3,360円(本人分のみ) | 約53万円 | 約1.9ヶ月分 |
つまり「6ヶ月分」という目安は、片働き世帯にとっては的外れではありませんでした。
この記事は「6ヶ月分は多すぎる」と言いたいのではありません。計算してみたら、片働き世帯ではむしろ妥当だった——これが正直な結論です。
では何が問題だったのか。根拠を知らないまま全世帯に当てはめていたことです。
- 共働き世帯は約1.9ヶ月分で足りるのに、6ヶ月分を目標にして何年も投資を始められない
- 片働きで生活費が大きい世帯は、6ヶ月分でも足りない
- 自分から辞めるときは給付制限があるぶん、さらに厚みが要る

結局6ヶ月分に近づいたのに、計算した意味ってあったのかしら?

大ありだよ。うちが共働きを続けるなら53万円で足りる。もし私が一人で稼ぐ形になったら163万円以上要る。同じ「6ヶ月分」でも、うちがどっち側にいるかが分かった——それがいちばん大きい。数字が同じでも、根拠があるかないかで動き方が変わるんだ。
どこに置くか|「増やす」より「すぐ出せる」を優先する
生活防衛資金の置き場所は、収益性ではなく流動性で選びます。必要になるのは「困ったその日」だからです。
| 置き場所 | すぐ出せるか | 向き不向き |
|---|---|---|
| 普通預金 | ◎ いつでも | 生活防衛資金の基本。生活口座とは別の口座に分ける |
| 定期預金 | ○ 中途解約すれば出せる(利息は下がる) | 一部を置くのは可 |
| 個人向け国債(変動10年) | △ 発行から1年は原則換金できない | 生活防衛資金には向かない。「使う予定のあるお金」向き |
| 投資信託・株式 | × 相場次第で元本割れ | 生活防衛資金には使わない |
いちばん大事なのは「生活口座と分ける」ことです。同じ口座に置いておくと、生活費と混ざって、いつのまにか使ってしまいます。ネット銀行に専用口座を1つ作って、そこに置いて、見ない。これで十分に機能します。

少しでも増やしたくなっちゃうけど……。

気持ちは分かるよ。でも生活防衛資金で増やそうとすると、必要なときに減っているという一番まずいことが起きる。増やすのは③のお金の仕事。役割を混ぜないのが、結局いちばん強いんだ。
インフレの時代に、現金で持つ意味はあるのか
ここは正直に書きます。生活防衛資金を現金で持つと、物価が上がる分だけ価値は目減りします。
日本銀行が目標とする年2%の物価上昇が20年続くと、物価はおよそ1.5倍になります。この記事の田中家で言えば、いま月28万円で送っている暮らしが、20年後には同じ内容で月41〜42万円かかるということです。つまり「生活費の何ヶ月分」という考え方は正しくても、その金額は放っておくと目減りします。
それでも、生活防衛資金は現金で持つべきだと私は考えています。理由は3つあります。
- 使う時期が「いつ来るか分からない」から。10年後と決まっているお金なら投資できますが、失業や病気はいつ来るか選べません
- 必要になる場面と、相場が悪い場面が重なりやすいから。景気が悪化すれば、失業リスクと株価下落は同時に来ます
- 目減りする金額より、取り崩す損失のほうが大きいから。年2%の目減りは134万円なら年約2.7万円。一方、暴落時に投資を売れば3割減ることもあります
★インフレ対策は「増やすお金」(③)の役割です。生活防衛資金にインフレ対策を求めると、本来の役割を壊してしまいます。役割ごとに置き場所を分ける——結論はここに戻ります。老後資金をどう増やすかは老後資金は本当に2000万必要?、NISAとiDeCoの順番はiDeCoとNISAどっちが先?で整理しています。
なお、生活防衛資金は一度決めたら固定ではありません。物価が上がれば月の生活費が上がり、必要額も上がります。年に1度、生活費を測り直して更新してください。
papa-fp の場合|「6ヶ月分」で止まっていた5年間
制度の話が続いたので、家計の話に戻します。以下はこれまでに寄せられたご相談から、よくある形を組み直したものです。特定の実在の方の事例ではありません。
このケースで実際に計算してみると、共働きで配偶者の手取りが続く前提なら、必要額は40〜60万円程度でした。90万円はすでに十分だったのです。
ここで大事なのは、この方は真面目だったということです。ルールを守り、順番を守った。ただ、そのルールの根拠を誰も説明してくれなかった。その結果、4年間ためらった。
私自身、同じ場所で止まっていた時期があります。「まず生活防衛資金」と書いてある記事を読んで、金額の根拠を確かめないまま目標だけを高く置いた。いま振り返れば、あのとき計算していれば早く動けたはずでした。
だから、この記事では計算式を出した
目安を否定したいのではありません。目安は、根拠とセットで初めて使えると言いたいのです。
6ヶ月分が必要な家庭は確かにあります。片働きで、生活費が大きく、住宅ローンがあり、勤続年数が短い——この条件なら、6ヶ月分でも足りないかもしれません。大事なのは、自分がどちらなのかを知ることです。
よくある誤解と正解
誤解①「生活防衛資金が貯まるまで、投資を始めてはいけない」
正解:順番としては正しいのですが、ゴールの金額が根拠なく高いと、何年も動けなくなります。この記事の式で自分の必要額を出してから判断してください。共働きなら想像よりずっと少ないことがあります。
誤解②「多く持っているほど安全」
正解:多すぎる現金は、インフレで目減りし続けます。年2%なら20年で価値はおよそ3分の2。必要額を超えた分は「増やすお金」に回すほうが合理的です。
誤解③「年収が高いから、生活防衛資金は少なくていい」
正解:逆です。基本手当には年齢別の上限があります(40代で日額8,270〜9,110円)。月給が高いほど公的給付との差額が大きくなるため、収入が多い家庭ほど必要額は増えます。
誤解④「会社都合で辞めるほうが大変」
正解:お金の面だけで言えば、備えが必要なのは自己都合のほうです。会社都合は給付制限がなく、給付日数も長い(40代・勤続20年以上で270〜330日)。自分から辞めるときこそ、現金を厚くしてから動いてください。
誤解⑤「生活防衛資金は一度貯めたら終わり」
正解:生活費が変われば必要額も変わります。子の進学、住宅ローンの開始、親の介護——生活費が上がれば必要額も上がります。物価上昇の影響もあります。年に1度は測り直してください。
誤解⑥「独立・転職を考えていても、同じ計算でいい」
正解:会社を辞めて独立する場合は別の計算になります。独立すると傷病手当金がなくなり、雇用保険にも入れません。会社員の前提が丸ごと外れるため、この記事の式ではなく、より厚い備え(1年分など)が必要になります。
わが家の金額を出すための5つの手順
ここまでの内容を、手を動かす順番に並べ直します。全部で5つ、早ければ30分で終わります。
① 直近3ヶ月の「出ていったお金」を平均する
通帳とクレジットカードの明細を3ヶ月分並べて、合計を3で割ります。年収ではなく支出です。ここが全ての土台になります。手元にあればすぐ終わります。
② 配偶者の手取りが「続くかどうか」を確認する
本記事の計算でいちばん効くのがここです。共働きで配偶者の収入が続くなら、必要額は3分の1以下になることがあります。パート勤務の場合は、勤務先の状況もあわせて確認してください。
③ 勤務先の雇用保険の被保険者期間を確認する
給付日数は勤続年数(雇用保険の被保険者であった期間)で変わります。分からない場合は、勤務先の人事・総務に「私の雇用保険の被保険者期間は何年何ヶ月ですか」と聞くのが確実です。離職票が手元にあればそこにも記載があります。自分では調べにくい数字なので、遠慮せず聞いてください。
④ この記事の式に当てはめて金額を出す
①生活費 × 空白期間(自己都合なら3ヶ月)+ ②(生活費 − 公的給付)× 受給期間 + ③退職後に増える支出。③は国民年金(1人月17,920円・配偶者を扶養に入れていたなら2人分)と、住民税の年額、健康保険料の増加分です。紙に書けば10分で出ます。出した金額は、必ずメモに残しておいてください。
⑤ 生活口座とは別の口座に、その金額を移す
金額が出たら、専用の口座を1つ作って移します。すでに足りているなら、超過分は「増やすお金」に回して構いません。足りないなら、月いくらずつ埋めるかを決めます。固定費を1つ見直すのが近道で、金額の大きい生命保険から見るのがおすすめです(生命保険を半分に減らした40代パパの見直し術)。
あわせて読みたい
- 傷病手当金はいくら・いつまでもらえる?給料の3分の2の計算と月給別早見表
- 医療保険はいらない?40代会社員は「貯蓄100万円」と公的保障で判定する
- 高額療養費制度は2026年8月からどう変わる?自己負担上限の引き上げを年収別早見表で
- 住民税が2026年6月から上がった理由|「定額減税終了」の正体と5つの節税策
- 老後資金は本当に2000万必要?不足額は月4.2万円・30年で約1,530万円
- iDeCoとNISAどっちが先?40代会社員は「NISA→iDeCo」で月3万円から
生活防衛資金は、貯めるためのお金ではありません。動けるようになるためのお金です。
「まず生活防衛資金を6ヶ月分」——その一文の前で、何年も足踏みしてしまう方がいます。
私もそうでした。金額の根拠を確かめないまま高い目標だけを置いて、届かない自分を責めて、結局なにも始められなかった時期があります。
変わったのは、FPの勉強で「会社員にはすでに公的な備えがある」と知ってからです。数えてみたら、思っていたより自分は守られていた。足りないのはお金ではなく、計算だったのです。
いくら必要かが分かれば、そこから先は貯めるだけ。ゴールが見えている貯金は、驚くほど続きます。
この記事を閉じたら、通帳を3ヶ月分だけ開いて、出ていったお金を平均してみてください。それだけで、あなたの必要額の半分は出ます。
あなたとご家族が、お金の不安から自由になりますように。それがこのブログを書き続けている、たった一つの理由です。
免責事項
本記事は、更新時点(2026年9月8日)の厚生労働省・日本年金機構・全国健康保険協会・ハローワークの公開資料をもとに、40代会社員FP(FP2級・簿記3級)が一般向けに整理したものです。雇用保険の給付日数・基本手当日額は、年齢・被保険者期間・離職理由・賃金によって個別に決まります。本記事の金額は目安であり、実際の受給額はハローワークにご確認ください。健康保険料・国民健康保険料は、加入する健康保険組合およびお住まいの市区町村によって大きく異なります。退職前に必ず両方へ試算をご依頼ください。傷病手当金の個別判定、国民年金保険料の免除・納付猶予の可否は、勤務先の健康保険組合・年金事務所・市区町村にご確認ください。本記事は特定の金融商品の購入を勧めるものではなく、個別の投資助言を行うものではありません。
出典・参考リンク
- ハローワークインターネットサービス 基本手当の所定給付日数
- ハローワークインターネットサービス 基本手当について
- 厚生労働省 令和8年8月1日からの基本手当日額等の適用について
- 厚生労働省 令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)=自己都合の給付制限が2か月→1か月(PDF)
- 厚生労働省 令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます
- 日本年金機構 国民年金保険料
- 厚生労働省 令和8年度における国民年金保険料の前納額について(PDF)
- 全国健康保険協会 会社を退職するとき(退職後の健康保険3つの選択)
- 全国健康保険協会 健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)についてのよくあるご質問
最終更新: 2026年9月8日 / 執筆: ウェルス(papa-fp編集長・FP2級・簿記3級)
※本記事にはアフィリエイト広告(PR)が含まれます。


コメント