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結論:2026年8月の診療分から、高額療養費制度の「1か月の自己負担上限」が引き上げられます。40代会社員に多い年収約370万〜770万円の区分では、月80,100円が85,800円になり、基本額で月5,700円の負担増です。一方で、長期治療者向けの「多数回該当」は据え置かれ、新しく「年間上限」というセーフティネットも加わります。
「医療費の上限が上がる」というニュースだけを見ると不安になりますが、今回の見直しは「上がる部分」と「守られる部分」と「新しく守られるようになる部分」が混ざっています。この記事では、厚生労働省の資料をもとに、2026年8月と2027年8月の2段階で何がどう変わるのかを年収別の早見表で整理し、40代会社員の家計として何を備えておけばよいかを、FP2級を持つ私の視点で論点整理します。
ニュースで「医療費の自己負担が上がる」って見たんだけど…。もし大きな病気をしたら、うちの家計は大丈夫?医療保険を増やしたほうがいいのかな。
不安になる気持ちは分かる。でも保険を増やす前に、まず「いくら上がるのか」を正確に知ろう。実は、うちの年収だと基本額で月5,700円の引き上げなんだ。数字が分かれば、備え方も冷静に決められるよ。
「自分の年収だといくら上がるの?」をすぐ知りたい方は、記事中ほどの年収別早見表へどうぞ。仕組みからじっくり知りたい方は、このまま読み進めてください。この記事を読むと、次のことが分かります。
- 高額療養費制度の現行の仕組みと「多数回該当」の意味
- 2026年8月からの3つの変更点(引き上げ・据え置き・年間上限の新設)
- 年収別の自己負担上限の早見表(現行→2026年8月→2027年8月)
- 40代会社員・入院ケースでの負担額の変化(1円単位の計算過程つき)
- 「医療保険を増やす」の前に確認したい3つのこと
- マイナ保険証・医療費控除など、今日からできる備え
高額療養費制度とは?まず現行の仕組みを3分でおさらい
変更点を理解するには、現行制度の仕組みを知っておくのが近道です。すでにご存じの方は、次の章まで読み飛ばしていただいて構いません。
高額療養費制度とは?|医療費の自己負担に「月ごとの上限」を設ける制度
高額療養費制度とは、1か月(月の1日〜末日)に医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が一定の上限額を超えた場合、その超えた分が健康保険から払い戻される制度のことです。
日本の会社員は、医療費の窓口負担が原則3割です。ただ、大きな手術や長期入院で医療費が100万円かかったら、3割でも30万円。これでは家計がもちません。そこで「どんなに医療費がかかっても、1か月の自己負担はここまで」という天井を設けているのが高額療養費制度です。上限額は年収(正確には健康保険の標準報酬月額)によって5つの区分に分かれています。
民間の医療保険を検討するときも、この制度が土台になります。「医療費の全額に備える」のではなく、「上限額までの自己負担に備える」のが正しい考え方です。
自己負担上限額の計算例|医療費100万円・年収500万円の場合
現行制度で、70歳未満・年収約370万〜770万円(区分ウ)の方の上限額は、次の式で計算されます。
80,100円+(総医療費−267,000円)×1%
たとえば1か月の総医療費が100万円(窓口3割負担なら30万円)かかった場合の上限額は、
80,100円+(1,000,000円−267,000円)×1%=80,100円+7,330円=87,430円
窓口でいったん30万円を払っても、申請すれば差額の212,570円が戻ってきます(マイナ保険証等を使えば、窓口での支払い自体を上限額までにできます。詳しくは後述します)。30万円の負担が約8.7万円まで圧縮される——これが高額療養費制度の力です。
多数回該当とは?|長期治療の4か月目から上限がさらに下がる仕組み
多数回該当とは、直近12か月の間に3回以上高額療養費の上限に達した場合、4回目以降の上限額がさらに引き下げられる仕組みのことです。がん治療や透析など、治療が長期にわたる方の負担を抑えるためのルールで、区分ウの場合、4回目以降の上限は月44,400円になります。
この多数回該当が今回の見直しでどうなるかが、長期治療中の方やそのご家族にとって最大の関心事でした。結論を先に言うと、多数回該当の金額は据え置き(現行の44,400円のまま)です。この点は次の章で詳しく見ます。
世帯合算とは?|家族の医療費を合わせて上限を超えたら戻ってくる
高額療養費には世帯合算という仕組みもあります。1人分では上限に届かなくても、同じ医療保険に加入している家族の自己負担(70歳未満は1人・1医療機関あたり21,000円以上のものが対象)を同じ月の中で合算し、合計が上限額を超えれば、超えた分が払い戻される制度です。
たとえば同じ月に、夫の入院で15万円、妻の手術で8万円の自己負担があった場合、合算した23万円をもとに高額療養費を計算できます。注意点は「同じ医療保険」という条件です。共働きで妻が自分の勤め先の健康保険に入っている場合、夫の健康保険とは合算できません。一方、夫の扶養に入っている妻や子どもの医療費は合算の対象です。家族の入院・手術が重なった月は、この世帯合算を思い出してください。
申請方法と期限|時効は2年、さかのぼって請求できる
高額療養費は、加入している保険者(健康保険組合・協会けんぽ・市区町村国保など)に支給申請をして受け取ります。組合によっては自動的に計算して給付してくれるところもありますが、原則は申請主義です。
期限は診療月の翌月1日から2年。逆に言えば、過去2年以内に大きな医療費を払った月があれば、いまからでも申請できます。「あのとき申請していなかったかも」と思い当たる方は、レセプト(医療費のお知らせ)や領収書を確認してみる価値があります。
対象にならないお金もある|差額ベッド代・入院中の食事代など
注意点として、高額療養費の対象になるのは「保険診療の自己負担分」だけです。次のお金は対象外で、全額自己負担になります。
- 差額ベッド代(個室や少人数部屋を希望した場合の追加料金)
- 入院中の食事代(入院時食事療養費の標準負担額)
- 先進医療の技術料(保険適用外の治療部分)
- パジャマ代・テレビカード・お見舞いの交通費などの雑費
「高額療養費があるから医療費は月9万円弱で済む」は保険診療の話で、実際の入院ではこうした自費分が上乗せされます。医療費の備えを考えるときは、この「制度の外側にあるお金」も含めて考える必要があります。
2026年8月からの3つの変更点|「引き上げ」だけではない
2026年5月29日に「健康保険法等の一部を改正する法律」が成立し、高額療養費制度の見直しが決まりました。実施は2段階で、第1段階が2026年8月の診療分から、第2段階(所得区分の細分化)が2027年8月からです。まず第1段階の変更点は大きく3つあります。
変更点①|月あたりの自己負担上限額が引き上げ
1〜3回目の月あたり上限額が、全所得区分で引き上げられます。40代会社員に多い区分ウ(年収約370万〜770万円)では、計算式が次のように変わります。
- 現行:80,100円+(総医療費−267,000円)×1%
- 2026年8月〜:85,800円+(総医療費−286,000円)×1%
基本額ベースで月5,700円の引き上げです。背景には、高齢化と医療の高度化——特に高額な新薬の普及——で医療費全体が伸び続けており、高額療養費の支給額は医療費全体の約2倍のスピードで増えているという事情があります。制度を将来も維持するために、一人あたり医療費の伸びに合わせて上限を見直す、というのが国の説明です。
変更点②|多数回該当の金額は据え置き
長期治療者の命綱である多数回該当(4回目以降の上限)は、全区分で現行水準のまま据え置きとなりました。区分ウなら44,400円のままです。2025年の議論では多数回該当も引き上げる案がありましたが、がん患者団体などの声を受けて修正された経緯があります。
つまり、今回の引き上げの影響を主に受けるのは「たまたま大きな医療費がかかった月が年に1〜3回ある人」で、「毎月上限まで医療費がかかる長期治療中の人」の月々の負担は変わらない設計です。
変更点③|「年間上限」が新設される(負担が減る人もいる)
今回の見直しで新しく生まれるのが「年間上限」です。年間上限とは、月ごとの上限額には達しない自己負担が続いた場合でも、1年間の自己負担の合計が一定額に達したら、それを超えた分が払い戻される仕組みのことです。区分ウの場合、年間上限は53万円に設定されます。
これまでの制度には「毎月8万円弱の医療費がかかり続けるのに、月の上限にわずかに届かないため高額療養費も多数回該当も使えない」という谷間がありました。厚生労働省の試算では、こうしたケースで年間約23万円の負担減になる例も示されています。「上限の引き上げ」ばかりが報道されますが、この年間上限の新設は負担が軽くなる方向の変更です。
なお、年間上限は保険者のシステム対応の関係で、患者本人からの申出(申請)を前提とした運用で始まる予定です。自動的には戻ってこない可能性が高いので、「そういう制度ができた」と知っておくこと自体が備えになります。
【年収別早見表】2026年8月からあなたの上限はいくら上がる?
70歳未満の月あたり自己負担上限額(1〜3回目)を、現行と2026年8月以降で比較したのが次の表です。ご自身の年収の行だけ見ていただければ大丈夫です。
| 年収の目安 | 現行(〜2026年7月) | 2026年8月〜 | 基本額の増分 | 多数回該当 | 年間上限(新設) |
|---|---|---|---|---|---|
| 約1,160万円〜 | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 270,300円+(医療費−901,000円)×1% | +17,700円 | 140,100円(据え置き) | 168万円 |
| 約770万〜1,160万円 | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 179,100円+(医療費−597,000円)×1% | +11,700円 | 93,000円(据え置き) | 111万円 |
| 約370万〜770万円 | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 85,800円+(医療費−286,000円)×1% | +5,700円 | 44,400円(据え置き) | 53万円 |
| 〜約370万円(住民税課税) | 57,600円 | 61,500円 | +3,900円 | 44,400円(据え置き) | 53万円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 36,900円 | +1,500円 | 24,600円(据え置き) | 29万円 |
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(令和7年12月25日 社会保障審議会医療保険部会資料)をもとに筆者作成。年収はあくまで目安で、正確には健康保険の標準報酬月額で区分されます。
先ほどの「医療費100万円・区分ウ」の例で比べると、上限額は87,430円→92,940円で、1回あたり5,510円の負担増です(計算式の控除基準額も変わるため、増分は基本額の5,700円とわずかにずれます)。
思ったより小さい…と言っていいのかな。月9万円弱が上限なら、貯金でなんとかなりそうな気もするけど。
その感覚は大事。ただし本番は2027年8月の第2段階なんだ。うちみたいに年収510万円を超えていると、上限はもう一段上がる。次の表を見てほしい。
2027年8月の第2段階|所得区分の細分化は40代にこそ影響が大きい
2027年8月からは、5つだった所得区分が細かく分かれます(住民税非課税区分を除き、各区分を3つに細分化)。現行制度では「年収400万円の人と750万円の人が同じ上限額」というおおざっぱさがあり、これを収入に応じたきめ細かい負担(応能負担)に変える趣旨です。
40代会社員のボリュームゾーンである現行の区分ウ(年収約370万〜770万円)は、次の3つに分かれます。
| 年収の目安 | 2026年8月〜2027年7月 | 2027年8月〜 | 現行からの基本額の増分 |
|---|---|---|---|
| 約370万〜510万円 | 85,800円+1% | 85,800円+1%(変わらず) | +5,700円 |
| 約510万〜650万円 | 85,800円+1% | 98,100円+1% | +18,000円 |
| 約650万〜770万円 | 85,800円+1% | 110,400円+1% | +30,300円 |
ご覧のとおり、2027年8月の細分化では、年収510万円以上の会社員の上限がもう一段大きく上がります。40代後半で年収が上がってきた世帯ほど影響が大きい設計です。なお、年収約770万円超の区分も同様に3分割され、最上位(年収約1,650万円超)は月342,000円+1%まで引き上げられます。
一方で配慮もあります。年収約200万円未満の方は、2027年8月に多数回該当が44,400円→34,500円に引き下げられ、年間上限も41万円と低く設定されます。住民税非課税の方の上限は2027年8月時点でそれ以上引き上げられません。「取れるところから取る」一辺倒ではなく、低所得層に配慮しつつ中間層以上の負担を増やす、という構図です。
また、70歳以上の外来には「外来特例」という月額上限(現行、住民税課税で年金収入約200万〜383万円の方は月18,000円)がありますが、これも2026年8月に22,000円、2027年8月に28,000円へ引き上げられます。離れて暮らす親御さんが通院中の方は、頭の片隅に置いておくとよい変更です。
家計への影響をFPが試算|40代会社員・年収620万円の入院ケース
数字を自分ごとにするために、わが家に近いモデルケースで試算してみます。
【モデル】46歳会社員・年収620万円(区分ウ→2027年8月からは510万〜650万円区分)・妻はパート・子ども2人。胆石の手術で10日間入院し、1か月の総医療費が80万円(窓口3割負担なら24万円)かかったケース。
| 時期 | 計算式 | 自己負担上限額 | 現行との差 |
|---|---|---|---|
| 現行(〜2026年7月) | 80,100円+(800,000円−267,000円)×1% | 85,430円 | — |
| 2026年8月〜 | 85,800円+(800,000円−286,000円)×1% | 90,940円 | +5,510円 |
| 2027年8月〜 | 98,100円+(800,000円−327,000円)×1% | 102,830円 | +17,400円 |
同じ入院でも、2027年8月以降は現行より17,400円多く払うことになります。これに差額ベッド代(1日5,000円の部屋なら10日で5万円)や食事代・雑費が乗るので、1回の入院の実支出はざっくり15万〜20万円程度を見込んでおくイメージです。
ここで視点を変えてみます。窓口3割の24万円が、制度のおかげで約9.1万円まで圧縮されている——つまり負担が増えてもなお、約15万円は高額療養費が肩代わりしてくれるわけです。「上限が上がった」と「制度が頼れなくなった」は、イコールではありません。慌てて民間保険に走る前に、この規模感を押さえておきたいところです。
ちなみに、治療が長引いて高額療養費に該当する月が4回以上になれば、4回目からは多数回該当で月44,400円(据え置き)。毎月の医療費が上限に届かず積み上がる場合は、新設の年間上限53万円が天井になります。「最悪のケースでも、保険診療の自己負担は年間でこのあたりが上限」という見通しが立つのは、家計管理上はむしろ計画を立てやすい材料です。
長期治療のケース|多数回該当の人は年間負担が変わらない
「長い治療をしている家族がいる」という方のために、厚生労働省が審議会資料で示した実例ベースのケースも紹介します。
【ケース】40代女性・年収約480万円(標準報酬月額34万円)・慢性骨髄性白血病で前年から治療継続中。年間の総医療費約287万円(3割負担分約86万円)。
この方は毎月の医療費が高く、年間を通じてほぼ多数回該当(月44,400円)が適用されています。厚生労働省の試算では、この方の年間自己負担は現行22.2万円→見直し後も22.2万円で変わりません。多数回該当が据え置かれたためです。
一方、同資料には「毎月7万〜8万円の医療費がかかり続けるのに、月の上限にわずかに届かず、高額療養費をほとんど使えなかった方」のケースもあります。年収約370万〜510万円のこの方の年間自己負担は約76.7万円でしたが、年間上限53万円の新設により、見直し後は53万円で頭打ちになり、年間約23.7万円の負担減になります。
まとめると、今回の見直しで負担が増えるのは「単発の入院・手術がある年」で、増加幅は月数千円〜(2027年8月以降は最大2〜3万円)。長期治療中の方は原則変わらず、制度の谷間にいた方はむしろ軽くなる——これが実像です。
「医療保険を増やすべき?」と考える前に確認したい3つのこと
今回のようなニュースが出ると、保険会社の広告も増えます。「自己負担が増える今こそ医療保険を」という訴求を目にする機会が増えるはずです。入る・入らないの判断は各家庭の状況次第ですが、その前に確認しておきたいことが3つあります。
①勤め先の健康保険に「付加給付」がないか確認する
付加給付とは、健康保険組合が法定の高額療養費に独自に上乗せして払い戻しをしてくれる制度のことです。大企業の健保組合には「自己負担が月2万円〜2.5万円を超えた分は組合が負担する」といった手厚い付加給付を持つところが少なくありません。
付加給付がある健保に加入している方は、今回の上限引き上げの影響をほぼ受けません(法定の上限が上がっても、組合の払い戻しラインが変わらなければ実負担は同じです)。探し方は簡単で、保険証(またはマイナポータルの資格情報)で健保組合の名前を確認し、「◯◯健康保険組合 付加給付」で検索するだけです。給付の項目名は組合によって「一部負担還元金」「付加金」などと呼ばれることもあります。これを知らずに医療保険に入るのは、すでに持っている傘の上にもう1本傘を買うようなものです。
②「生活防衛資金+医療費バッファ」の現在地を確認する
先ほどの試算のとおり、1回の入院の実支出は15万〜20万円程度、長期化しても保険診療分は年間53万円が目安です。生活費の6か月分の生活防衛資金に加えて、医療費バッファとして100万〜200万円の貯蓄があれば、保険診療の自己負担は貯蓄で受け止める選択肢が現実味を帯びます。
私はがん保険を検討したときに「貯蓄200万円+先進医療特約」という結論に至りました。考え方の詳細はがん保険は40代に必要か?|「貯蓄200万+先進医療特約」で月5,000円の保険料を浮かすにまとめています。高額療養費の上限が上がった後でも、この骨格は変わらないと考えています(バッファの目安を少し厚めにする程度です)。
③保険料の増額は「確実な固定費増」だと認識する
医療費の負担増は「入院したら発生するかもしれない支出」ですが、保険料の増額は「入院しなくても毎月確実に出ていく支出」です。月3,000円の医療保険を上乗せすれば年3.6万円、20年で72万円。これは2027年8月以降の上限額換算で、入院約7回分に相当します。
不安を保険で埋める前に、いま入っている保険全体を棚卸しして、重複や過剰がないかを見るほうが先です。わが家は生命保険の見直しで年20万円の固定費を圧縮できました。手順は生命保険を半分に減らした40代パパの5つの悩みで書いています。
「負担増」のニュースが不安な40代へ|心理面との付き合い方
制度の中身以上に、この種のニュースは心をざわつかせます。40代は親の介護や子どもの進学が視野に入り、健康診断の数値も気になり始める年代。医療費の話が「自分ごと」として刺さるのは自然なことです。ただ、不安のまま家計の意思決定をすると、たいてい割高な選択になります。心理のクセを3つだけ知っておいてください。
1つ目は損失回避です。人は「得る喜び」より「失う痛み」を2倍前後強く感じると言われます。「月5,700円の負担増」は、同じ金額の減税よりずっと大きく感じられます。しかも見出しは「引き上げ」の部分だけを切り取ります。多数回該当の据え置きや年間上限の新設という「守られる側の変更」まで含めて、等身大のサイズで受け止めることが第一歩です。
2つ目は、頻度の錯覚です。ニュースで大病の話題を見るほど「自分にも起こりそう」と感じますが、40代で高額療養費を使うような入院・手術は、多くの人にとって数年〜十数年に一度あるかないかの出来事です。毎年確実に発生する支出(保険料・住居費・教育費)の最適化のほうが、家計への効き目は大きく、確実です。2026年は6月の住民税の変化などお金のニュースが続いた年でもあります。ひとつずつ正体を確かめる習慣が効きます(参考:住民税が2026年6月から上がった理由)。
3つ目は、インフレとセットで考えることです。今回の見直しの根っこは医療費全体の伸びで、これは物価や賃金の上昇と地続きの話です。医療費の上限も、教育費も、生活費も、10年20年のスパンでは名目額が膨らんでいく前提で家計を設計する必要があります。日銀が目標とする年2%のインフレが20年続くと、物価はおよそ1.5倍。現金だけで将来の医療費バッファを持つと、実質的な価値は目減りしていきます。生活防衛資金と医療費バッファは現金で確保しつつ、その先の余力はNISAなどインフレに強い資産へ——という役割分担が、負担増時代の基本形だと私は考えています。
2026〜2027年は「手取りイベント」が続く|個別に慌てないための年表
不安を等身大にするもうひとつのコツは、カレンダーで俯瞰することです。実は2026〜2027年は、会社員の手取りや負担に関わる制度変更が立て続けにやってくる期間です。
| 時期 | 何が変わる? | 家計への影響 |
|---|---|---|
| 2026年4月〜 | 子ども・子育て支援金の徴収開始(健康保険料に上乗せ) | 給与・賞与から少額の天引き増 |
| 2026年6月 | 住民税から定額減税が消える | 月々の手取りが見かけ上減少 |
| 2026年8月 | 高額療養費の上限引き上げ第1弾(この記事) | 大きな医療費がかかった月の負担増 |
| 2026年10月 | 社会保険料の定時決定が給与に反映 | 4〜6月の給与次第で手取りが増減 |
| 2026年12月 | 年末調整で基礎控除引き上げ(令和8年分)を精算 | 還付が増える人が多い(負担減) |
| 2027年1月〜 | iDeCoの拠出限度額引き上げが実際の掛金に反映 | 老後資金の積立枠が拡大(活用次第) |
| 2027年8月 | 高額療養費の所得区分細分化(第2弾) | 年収510万円以上は上限がもう一段増 |
こうして並べると、「負担が増えるだけの年」ではないことが分かります。2026年12月の年末調整では基礎控除の引き上げで還付が増える方が多く(詳しくは年末調整2026年の変更点)、2027年からはiDeCoの拠出枠も広がります(iDeCo月6.2万円改正)。増える負担と使える制度をセットで把握して、トータルで家計を守るのが40代の戦い方です。
今日からできる3つの備え|保険の前にやることがある
①マイナ保険証(または限度額適用認定証)で「窓口払いを上限まで」にする
高額療養費は「後から戻ってくる」制度ですが、いったん窓口で3割分を立て替えるのは家計に重い負担です。マイナ保険証を使って受診し、窓口で「限度額情報の表示」に同意すれば、支払いが最初から自己負担上限額までになります(従来の「限度額適用認定証」の事前申請と同じ効果です)。入院が決まったら、まずこれを思い出してください。24万円の立て替えと9万円の支払いでは、家計のダメージがまるで違います。
②医療費の領収書・明細を貯める仕組みを作っておく
自己負担が増えるほど、医療費控除(年間の医療費が10万円などを超えた場合の所得控除)の出番が増えます。高額療養費で戻った分は差し引く必要があるなど計算にコツがありますが、確定申告はe-Taxとマイナポータル連携でかなり楽になりました。手順は医療費控除を会社員がe-Taxで申請する5つの悩みで解説しています。まずは家族全員分の領収書と「医療費のお知らせ」を1か所に集める仕組みだけでも作っておきましょう。
③「わが家の上限額」を家計メモに書いておく
この記事の早見表から、ご自身の区分の上限額(2026年8月〜と2027年8月〜の2つ)と、勤め先の付加給付の有無をメモして、家計簿アプリや家族共有のメモに残しておいてください。記入例はこんな一行で十分です——「医療費の天井:月85,800円+1%(2027年8月からは98,100円+1%)/健保の付加給付:あり・月2万円超は還元/困ったらこの記事」。「大きな病気をしても、保険診療の自己負担は月◯円・年◯円まで」と言語化できていることが、いざという時の冷静さと、保険の営業トークへの耐性になります。5分でできる、いちばん費用対効果の高い備えです。
よくある質問(FAQ)
Q1. いつの診療分から新しい上限額になりますか?
2026年8月の診療分からです。7月末までの診療分は現行の上限額で計算されます。月をまたぐ入院は月ごとに別計算になるため、7月と8月にまたがる入院では、7月分は現行・8月分は新しい上限額が適用されます。
Q2. 新設される「年間上限」は自動で戻ってきますか?
患者本人からの申出(申請)を前提とした運用で始まる予定です。対象になりそうな方(月の上限に届かない医療費が続いている方)は、加入している健康保険組合・協会けんぽ・市区町村国保の案内を確認してください。運用の詳細は保険者ごとのアナウンスで確定していきます。
Q3. 70歳以上の親の医療費には影響がありますか?
あります。70歳以上の外来には月額上限(外来特例)があり、住民税課税で年金収入約200万〜383万円の方は月18,000円→2026年8月に22,000円→2027年8月に28,000円と段階的に上がります。住民税非課税の方は月8,000円→11,000円(年金収入が特に低い方は8,000円に据え置き)です。親御さんが定期通院している場合は、月々の負担が数千円単位で変わる可能性があります。帰省のタイミングで、お薬手帳と一緒に医療費の話も一度しておくと安心です。
Q4. 医療費控除と高額療養費は両方使えますか?
両方使えますが、二重取りはできません。医療費控除を計算するときは、支払った医療費から高額療養費で戻ってきた分(と民間保険の給付金)を差し引く必要があります。たとえば窓口で24万円払い、高額療養費で15万円戻った場合、医療費控除の対象になるのは差し引き9万円の部分です。順番としては「まず高額療養費で取り戻し、それでも年間の自己負担が10万円(総所得200万円未満の方は総所得の5%)を超えたら医療費控除」と覚えておくと整理しやすいです。
Q5. 共働きの妻が入院した場合、夫の高額療養費と合算できますか?
妻がご自身の勤め先の健康保険に加入している場合は、合算できません。世帯合算は「同じ医療保険に加入している家族」が条件だからです。この場合、妻の医療費は妻の健康保険で、夫の医療費は夫の健康保険で、それぞれ別々に高額療養費を計算します。なお、妻側の健康保険に付加給付があれば妻の分はそちらでカバーされるので、夫婦それぞれの健保の給付内容を確認しておくのがおすすめです。
Q6. 民間の医療保険は解約してもいいですか?
一概には言えません。付加給付の有無・貯蓄の厚さ・健康状態(再加入できるか)・保障内容によって答えが変わるからです。この記事でお伝えできるのは判断の材料までです。①高額療養費で保険診療の自己負担には天井があること、②付加給付があれば天井はさらに低いこと、③保険料は確実な固定費であること——この3点を踏まえて、ご自身の保険証券と貯蓄残高を並べて考えてみてください。迷う場合は、保険を売らない立場のFPに相談する選択肢もあります。
まとめ|「知らないうちに変わっていた」を防ぐのが最大の備え
最後に、この記事の要点を整理します。
- 2026年8月から高額療養費の月あたり上限が引き上げ。年収約370万〜770万円は80,100円→85,800円(+5,700円)
- 長期治療者向けの多数回該当(44,400円)は据え置き。新たに年間上限(同区分で53万円)も新設され、負担が減るケースもある
- 本番は2027年8月の所得区分細分化。年収510万〜650万円は98,100円、650万〜770万円は110,400円まで上がる
- 1回の入院での負担増は数千円〜2万円弱のオーダー。慌てて保険に走る前に、付加給付・貯蓄バッファ・保険の棚卸しを確認
- マイナ保険証の限度額表示・医療費控除の準備・「わが家の上限額」のメモ化が、今日からできる備え
制度は静かに変わっていきます。2026年8月の第1段階は影響が小さくても、2027年8月の第2段階は40代の家計にはっきり効いてきます。1年後に「知らないうちに変わっていた」と慌てないために、この記事をブックマークして、ご家族と「うちの上限額」を一度話してみてください。
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医療費の不安は、「知らない」が半分を占めている。
「自己負担が上がる」というニュースを見て、胸がざわっとした方へ。その感覚、私にも覚えがあります。
実は私自身、お金に無頓着だった頃は、高額療養費制度の存在すら知らずに、勧められるまま医療保険にいくつも入っていました。毎月の保険料が家計を圧迫しているのに、「何かあったら怖いから」とやめられない。不安の正体を確かめもせずに、お金だけ払い続けていたのです。
変わったのは、FPの勉強で「会社員はすでに手厚い保障の中にいる」と知ってからです。上限額を数字で言えるようになった日から、医療費の不安は「漠然とした恐怖」から「管理できる家計項目」に変わりました。制度が変わっても、この順番——まず知る、それから備える——は変わりません。
10年後、子どもたちが社会に出るとき、「保険は不安で入るものじゃなくて、数字で決めるものだよ」と伝えられる親でいたいのです。
この記事を閉じたら、ご自身の健康保険組合のサイトで「付加給付」を検索してみてください。5分で、あなたの家の医療費の天井が分かります。
あなたとご家族が、お金の不安から自由になりますように。それがこのブログを書き続けている、たった一つの理由です。
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免責事項
本記事は2026年7月時点の公表情報(2026年5月29日成立の健康保険法等の一部を改正する法律、および厚生労働省の審議会資料等)に基づいて執筆しています。自己負担限度額等の金額は政令等の公布により最終確定するため、施行までに内容が変更・調整される可能性があります。記載の計算例は特定の条件に基づくシミュレーションであり、実際の金額は加入する医療保険・所得区分・個人の状況により異なります。個別の判断は、加入先の健康保険組合・協会けんぽ・市区町村、またはファイナンシャルプランナー等の専門家にご相談ください。本記事は特定の保険商品・金融商品への加入や解約を推奨するものではありません。
出典・参考資料
- 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(令和7年12月25日 第209回社会保障審議会医療保険部会 資料) https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621844.pdf
- 厚生労働省「医療保険制度改正法が成立しました」(2026年5月29日) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_00014.html
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
- 一般社団法人公的保険アドバイザー協会「【2026年8月改正】高額療養費制度はどう変わる?」 https://siaa.or.jp/column/181
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「高額な医療費を支払ったとき」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/




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